出産の記録④ 6月12日(火) 午後 ~その瞬間~

12:00 pm
あれれ、生まれそうにない。点滴は増量していっているし、陣痛の頻度も戻ったのに!
何度も内診してもらうが、8.5cmから開かない。そろそろめげそうになってくる。
このお産劇の中で初めて涙がちょっとだけ出た。
この現象は何を意味しているのか?なぜ頸管が赤ちゃんの頭に被ったまま開かないのか?
私は神様に祈った。「ああ、やはり、これは私のせいですね。」と。思い当たる節があったから。
私が妊娠中に、「こんな子、生まれて来ない方がいいんだ!どうせ幸せになんかしてあげられないならいっそのこと…!」などと何度もいけないことを考えたり、叫んだりしたせいで、この子は生まれるのを躊躇しているのではないかと思った。
とても悲しくなって、生まれようとしつつも出て来れずにいる我が子が不憫でならなくなった。
もう出て来てもいいよ。
ママは待ってるよ。
会いたいよ…。
ひどいことたくさん言ってごめんね。
まだ会った事はないけれど、ママはもうすでに、あなたのことを心から愛しているよ。
だから、お願い、もうひどいことは言わないから、勇気を出して出て来て…。
どんな子でもいい。元気ならいいよ。
いや、元気でなかったとしても、ママはあなたのことを自分の命と引き換えにしても会いたいし、
生きて欲しい。
だから、ねえ、お願い…もう出ていらっしゃい…!
ああ、神様、この子と私に、力とお導きをください…!

2:00 pm
9cm開いた!しかし開く速度が遅い。オキシトシンはさらに増量されているのに。陣痛は、なんだか休みがなくなってきたぞ…!?痛みの波が来ると、その後普通は休みがあって、次の波まで休めるのに、休む前にさらに最大級の波が来るようになってしまって恐怖を覚え始める。

3:00 pm
ついに医長のベテラン女医、M先生登場。赤い口紅が素敵な、美しい先生だ。破水して36時間くらい経過し、この時私は発熱していた。38度6分。抗生剤を入れることになる。
「さあ、内診してみましょう!・・・あら、頭ここにあるのに、どうして開かないのかしらねえ!次、いきみが来た時に触るから、教えてね。」
と言われる。
陣痛の痛みがこの時いきみたい気持ちに変わって来ていた。
痛いというより「出したい」。巨大なウンチがそこに降りてきている感じ。
その最中に、先生が指で、膠着状態にあった子宮頸管の前側を、指で数か所、剥くように押してくれた。
これはさすがに痛かった。同時に、無間欠陣痛状態がより激しくなり、落ち着きっぷりを褒められていた私もさすがに、呼吸に集中することさえ難しくなってきた。喘ぐようであった。
M先生は私の旦那様を呼び、説明する。
「はい、ご主人!奥さんは今、新たな段階に突入しましたよ。だからほら、顔が変わったでしょう、陣痛に休みがなくなっちゃってるんです。でももうすぐですよ!頑張りましょうね!」

3:20 pm
かろうじて陣痛がおさまる貴重な合間に、すごい速さで血圧や体温を測ったり、助産師さん達が大勢で私のお世話をしてくれている。私はいよいよ意識が朦朧としてきた。「熱は?39度2分!?はいっ!」などと聞こえる。「はあ、そんな高熱はもう長らく出したことがないなあ…」と思っていると、絶えず聞こえていた胎児の心音が急に遅くなった。私は飛び上がりそうになった。この子が死ぬくらいなら、今すぐ私の腹を切って取り出してくれて構わない、そう叫ぼうと思った時に、助産師さんの声。

文字通り、息も絶え絶えの状態になってしまった私。3:28撮影。

「先生!子宮口全開です!」
「あっ、でも心音が…」
助産師さんたちが一斉にモニターの胎児の心音に注目する。
M先生は静かに胎児の心拍と私の顔色を見守る。みな動作を止め、静かになる。
私は気を送った。
我が子よ。
あと少し。頑張るのです!
ママと一緒に、頑張るのです…!

心音が元通りに戻った。
良かった。さあ、全開となったらゴールは見えたり!

5:00 pm
産瘤ができていると言われる。どんどん下がって来る。赤ちゃんがお腹にいた感覚が、お股のところにいる感じに変わった。 左を向いて横たわり、呼吸に専念。落ち着きを取り戻し、再び冷静さ満点の私。

5:15 pm
気付くとベテラン女医さん、妖怪先生の他、若い綺麗な女医さん、研修医の女医さん、そして助産師さんが7,8人ぞろぞろと分娩台の前に集まって来ている。台もついに、いきみバージョンに変形。
大きなライトが二つ、煌々と私の股間を照らす!(笑)
若い女医さんが、もういきんでいいですよ、次の痛みでいきんでみましょうと言う。
「深呼吸をしてから深く息を吸い込んで、息を止める、そして息を吐く代わりにお臍を見て思い切り肛門に力を入れてね。」
言われた通りにする。いきむ度、どんどん赤ちゃんの頭が回転しながら降りてきている感じがする。
便秘で固い便が出そうになったり引っ込みそうになったりしている時の感触の巨大版という感じ。
そんな感触を逐一実況中継する私に、ベテラン女医さんが言う。
「いやーそれにしてもあなた、ほんっとうに冷静ね!感心するわ!ちょっと見たことないくらい落ち着いてるし、呼吸の仕方もとっても上手よ。さあどんどん下がって来てるわよ、あと少し!」
俄然やる気アップした私。信じられない、もういきんでいいってことは、出そうなんだな?
まあ良い、出なかったら腹を切ってもらって取り出してもらえば良い。
ここまで来たら怖いものはない。
しかし空調が切られていて暑い。
39度2分の発熱中だが、旦那様がうちわであおいでくれる風の当たり具合を自分でコントロールしたくて、うちわを渡してくれと頼み、自分でいきみの合間にあおぐ。
「いや驚いた!いきみながら自分であおぐ人は初めて見たわ…!」
先生や助産師さんたち、そして旦那様も笑顔で応援してくれる。

「暑い!氷の入ったお水が飲みたい!」
そう叫んだ私に、背の高い助産師さんがひとり走って分娩室から出て行き、紙コップに氷とお水を入れて持って来てくれた。有り難かった。お礼を言い、飲みながら、自分であおぎながら、喋りながら、産もうとしている私。(そう、私は口から生まれたのだとよく両親に言われていました…笑)

終始、分娩台の周りを腕組みをしてゆっくり歩きながら、励ましてくれる妖怪先生。
「はい、ゆーっくり大きく深呼吸をして~。固い便を出すように、いきんでー。」
彼の繰り返しの声掛けにもしっかり従った。
とても心強かった。
普段から容易に人を信用せず、権威に盲従することを毛嫌いする私だが、このお産に関しては、全面的にスタッフの皆さんを信頼し、納得しながら分娩に臨んでいたため、先生や助産師さんの言う事にも本当によく従ったと思う。

いきみ始めてから約48分。
股間のデリケートな部分が、まさに便秘で固い便を無理して出す時のように、ピリピリっと裂ける感触がし、私は両手を胸の上に置くように、力を抜いてあとは赤ちゃんが出てくるのにまかせるようにと言われる。
「ええ~、ちょっと、これ以上広がると、お股裂けますけど…いやです~!」
そう訴える私にベテラン女医さんが、
「そうよ、裂けるのよー!いいのよー、もう出るだけよ~。」

そして…、出た。我が子が。思ったよりひどく裂けずに済んだ感じもする。
え、もう出たの?終わり?
私は冷静だった。
ただ、子宮筋腫があったので、子宮がうまく収縮せずに大出血に至る可能性もあると言われていたので、胎盤が出る前後も、少し縫合してもらっている時も、「血は出過ぎてないですか。大丈夫でしょうか、私は。」とビビりながらベテラン女医さんに聞いていた。幸いにも、出血量は普通で、無事分娩は終わったのだった。

~*~
時が止まり、眩しいライトの黄金色の光だけが記憶に残っている何秒かがある。
そして間もなく、出てきた我が子が無事に私の右側に連れて行かれ、きれいにしてもらったり身体の大きさ重さをはかってもらったりしている気配。意外に高くて、少し掠れたような、とってもかわいい泣き声。

まるで去り行く夜の闇をつんざくにわとりの鳴き声のように、この世の全ての悲しみや不幸に対する魔除け効果を持つかのような、元気で清らかな声。
黄金の泣き声。
私の赤ちゃん。

やっと会えたね!!

まだ母乳はもちろん出なかったけれど、生まれた後、できるだけ早く母子は密着するのが良いので、おっぱいを吸わせている様子。

初めて出会った彼なのに、もうずっと前から知っていたみたいな、不思議な既視感と安堵の気持ちがあふれ、彼を横に連れて来てもらい、そっと抱いた。
羊水と血の匂いがした。
私の内臓のようだった。
私とは別の人なはずなのに、私の一部という感じがした。
私の一部のようなのに、崇高で穢れなく、限りなく愛らしく、純粋だった。

39度超えの熱+34時間弱の戦いで食わず寝ずでヘロヘロながら、幸せな表情の私と、心なしか安心したように見える息子。

これが、私と小さな王子様のお産ストーリー。
無事生還出来て、神様に感謝している。

分娩所要時間は33時間4分と母子手帳に記されている。
この時間は、私の人生の中でも最も深い意味を持つものとなった。

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